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那覇地方裁判所 平成2年(ヨ)247号 決定 1991年1月23日

債権者

甲野一郎

外二九四名

債権者

乙川春子

外二二九名

債権者代理人弁護士

丙沢三郎

外五〇名

債務者

比屋根稔

債務者代理人弁護士

伊多波重義

小野哲

主文

一  債務者は、①別紙物件目録記載の建物の外壁に沖縄旭琉会富永一家比屋根総業を表示する紋章、文字板、看板を設置し、②右建物に沖縄旭琉会構成員を立ち入らせ結集させ、又は、これらの行為を容認、放置して、右建物を沖縄旭琉会富永一家比屋根総業の組事務所として使用してはならない。

二  申請費用は債務者の負担とする。

理由

第一申請の主旨

主文同旨

第二当裁判所の判断

一被保全権利

1  疎明資料によれば、以下の事実が一応認められる。

(一) 別紙債権者目録(一)記載の債権者らは、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の近隣地域に居住するものであり、別紙債権者目録(二)記載の債権者らは、本件建物の近隣地域において飲食店等を経営している者であり、いずれの債権者も、本件建物に近接する道路を日常的に通行する必要がある。

(二) 債務者は、組織暴力団である沖縄旭琉会(以下「沖縄旭琉会」という。)富永一家の支部組織である比屋根総業(以下「比屋根総業」という。)の長であり、平成二年五月ころ、本件建物を申請外徳元順次から買い受け、本件建物を比屋根総業の組事務所として使用し、現在、一日平均約三〇名の沖縄旭琉会の構成員が本件建物に出入りしている。

(三) 平成二年三月、本土から五代目山口組組長が警察によって来沖を阻止された件についての対応問題を契機として、沖縄県内最大の組織暴力団である三代目旭琉会(以下「旭琉会」という。)内部において、主流派と反主流派との間に紛争が発生した。そして、平成二年九月一三日に至り、別紙主流派対反主流派対立抗争事案一覧表(以下「別表」という。)番号1記載の反主流派幹部による主流派幹部に対する拳銃使用による殺人未遂事件が発生したことから、主流派は、反主流派幹部らを絶縁処分にした。これに対して、反主流派は、旭琉会を脱会し、新たに沖縄旭琉会を結成した。その後、旭琉会と沖縄旭琉会との間に、別表番号2ないし38記載の一連の抗争事件が発生し、現在も両者間の対立は終結をみていない状況にある。なお、別表番号34記載の事件では、暴力団と関係のない高校生が拳銃で撃たれて死亡し、別表番号37記載の事件では、警察官二名が拳銃で撃たれて死亡したり、暴力団と関係のない女性が拳銃で撃たれて負傷したりしている。

2 右認定事実によると、債務者が、① 本件建物の外壁に比屋根総業を表示する紋章、文字板、看板を設置し、② 本件建物に沖縄旭琉会構成員を立ち入らせ結集させ、又は、これらの行為を容認、放置して、本件建物を比屋根総業の組事務所として使用を継続すれば(なお、右認定事実によれば、債務者が、今後、右①及び②の行為をする虞れのあることは否定できない。)、旭琉会構成員が本件建物を沖縄旭琉会に対する攻撃の目標とすることにより、本件建物付近で、拳銃の使用を伴う新たな対立抗争事件の発生することが十分予想される。そして、このような対立抗争事件が発生した場合、本件建物に近接する道路を日常的に通行する必要がある債権者らは、これに巻き込まれて、生命、身体の安全を害される虞れが存するものということができる。

したがって、比屋根総業の組事務所としての本件建物の使用は、債権者らの生命、身体の安全を害する虞れのある行為というべきである。

そして、受忍限度を超えて違法に生命、身体の安全を害される虞れのある者は、人格権に基づき、その侵害行為の差止めを求めることができるものと解されるところ、右によれば、債権者らの被る虞れのある生命、身体に対する侵害は、受忍限度を超える違法なものであることが明らかであるから、債権者らは、人格権に基づき、債務者が本件建物を比屋根総業の組事務所として使用することの差止めを求めることができるものというべきである。

二保全の必要

生命、身体の安全という人格権は、これが侵害された場合には金銭で償うことのできない損害を被る性質のものであるから、本件において保全の必要性が存することは明らかである。

三結論

よって、債権者らの本件申請は全て理由があるから、事案に照らし保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官井上繁規 裁判官河野清孝 裁判官畑一郎)

別紙<省略>

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